漢方薬の処方④補陽剤

命門

『難経・三十六難』では右の腎を命門とします。気の根本である元気がやどる重要な場所であるため命の門とよびます。

補陰剤にからだを温める生薬を加えて補陽剤をつくる

容器を補う補陽剤には、いわゆる滋養強壮剤とよばれるものが多いです。ベースになる漢方薬は八味地黄丸です。六味地黄丸に附子と桂枝を加えたものです。補陰剤の六味地黄丸の処方を基本を基本にするのは、東洋医学独自の陰陽観にもとづいています。陽気を生成するには、からだを温めればいいです。しかし、陽虚に対して、臓腑を温める生薬ばかりを処方しても、あまり効果はあがらないとされます。

東洋医学では「陽を補う場合には、必ず陰の中に陽を求めよ」とされています。陰陽の関係は、陰が基礎であり、陰のうえに陽があらわれると考えられます。陰が充実していなければ、陽は生じません。たとえると、自動車を動かそうとして、いくらエンジンをふかしても、ガソリンがなければ走らないのと同じことです。八味地黄丸は、六味地黄丸で陰を充実させたのちに、からだを温める桂枝と附子を加え、腎を温めて陽気を生成させることで陽虚を改善します。

八味地黄丸の桂枝を肉桂に変えて、牛膝と車前子を加えたものが、午車腎気丸です。

腎には膀胱をコントロールして尿を排泄させる機能があります。陽虚がひどいと腎のはたらきが悪くなり、膀胱をうまく調節できなくなります。尿が出にくくなってむくみが生じることもあります。そこで、利尿作用のある牛膝と車前子を加えます。また、桂枝よりも、からだを温めて腎の陽気を補う作用が強い肉桂を使います。腎の陽気が補われ、水分の代謝もよくなる漢方薬です。同じく、八味地黄丸の桂枝を肉系に変えて、鹿茸と五味子を加えたのが十補丸です。腎を強く温め、強力に補陽することができます。

右と左、陰と陽の関係

八味地黄丸をベースにしない補陽剤に、右帰飲と右帰丸があります。補陰剤の左帰飲と左帰丸と正反対のはたらきがあり、補陽の効果が非常に高いです。名前に左右が冠されているのは、東洋医学の古典『難経・三十六難』で解説される理論に基づいています。腎(腎臓)は2つあるが、左は腎(腎陰)、右は命門(腎陽)という名称です。腎は、水に属し陰をつかさどり、命門は火に属し陽をつかさどるとされます。左の腎にはたらきかけて陰を生成する薬を左帰とよび、命門(右の腎)にはたらきかけて、陽を生成する薬は右帰とよばれています。

豆知識*『難経』は扁鵲(へんじゃく)が編したと伝えられる、中国最古の医学書のひとつです。難しい質問に専門家が答える形式をとり、鍼灸治療の具体的な方法をわかりやすく解説しています。地黄はアカヤジオウの根です。生のまま使うのを生地黄、乾燥させたものを乾地黄、蒸して乾燥させたものを熟地黄といいます。単に地黄といったときは、乾地黄をさすことが多いです。

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