1. 東洋医学における問診の本質
東洋医学の問診は、現在の主訴のみならず、既往歴や日常生活の細部に至るまでを網羅的に調査します 。些細な自覚症状であっても、それは臓腑や気血の失調を映し出す重要な情報となり得るからです 。
2. 寒熱と汗:正邪の攻防を読み解く指標
寒熱(かんねつ)、すなわち悪寒と発熱の状態は、病因である外邪(がいじゃ)の種類や、それに対する生体防御反応である正気(せいき)の強弱を判断する鍵となります 。
悪寒と発熱の組み合わせ
悪寒が強く発熱が軽い: 風邪(ふうじゃ)や寒邪(かんじゃ)による一般的な感冒に多く見られます 。
悪寒も発熱も強い: 強い邪気に対して正気が激しく抵抗している「実証(じっしょう)」の状態を示唆します 。
潮熱(ちょうねつ): 特定の時間帯に熱が上がる状態で、陰虚(いんきょ)による内熱や、胃腸の熱(陽明潮熱)などが原因として挙げられます 。
汗の臨床的意味: 寒熱と汗は密接に関連しています 。例えば、発熱があっても汗が出ない場合は寒邪の影響が疑われ、逆に何もしなくても汗が出る「自汗(じかん)」は気の不足を、寝汗である「盗汗(とうかん)」は陰虚を象徴します 。
3. 痛みの性質と部位による病態診断
痛みは患者が最も明瞭に訴える自覚症状であり、その「性質」と「部位」から病変の本質を探ります 。
- 痛みの性質による分類(主なもの):
- 脹痛(ちょうつう): 張ったような痛みで、主に「気滞(気の停滞)」に起因します 。
- 刺痛(しつう): 刺すような鋭い痛みで、「瘀血(おけつ:血の停滞)」の典型的な症状です 。
- 隠痛(いんつう): 我慢できる程度の鈍痛で、気血の不足による「虚証」の痛みとされます 。
- 部位と経絡の関連: 東洋医学では、各部位は経絡を通じて特定の臓腑と繋がっていると考えます 。例えば、脇の痛み(脇痛)は肝や胆の変調を示し、腰痛は「腎」の精気の不足や冷えに関連することが多いのが特徴です 。
4. 飲食・味覚と臓腑の相関
食欲や好みの味からは、消化吸収を司る「脾・胃」の状態、さらには「五行色体表」に基づく各臓腑の盛衰を判断できます 。
- 食欲のパターン: 食欲旺盛で即座に空腹を感じるのは「胃熱」による消化作用の亢進が疑われ、逆に空腹感があっても食べられない場合は「胃の陰液不足」が考えられます 。
- 五味(ごみ)の嗜好: 身体は不足している機能を補うため、特定の味を自然に求める傾向があります 。
- 酸(すっぱい): 「肝」が弱っている時に好まれます 。
- 苦(にがい): 「心」に対応します 。
- 甘(あまい): 「脾」に対応します 。
- 辛(からい): 「肺」に対応します 。
- しおからい: 「腎」に対応します 。
5. 排泄と月経:水液代謝と気血の鏡
大小便や月経の状態は、体内の水液代謝(気化作用)や気血の充実度を直接的に反映します 。
- 大小便: 排尿の問題(量、回数、色)は肺・脾・腎の気化作用の障害を、便の状態(便秘、下痢、軟便)は大腸のみならず、脾・胃や肝の疾病を診断する材料となります 。
- 月経: 経血の量や色、周期、伴う痛みや精神状態(イライラなど)から、女性特有の気血の状態を精密に分析します 。
総括
以上のように、東洋医学における問診は、身体が発する微細なサインを体系的な理論(五行、経絡、気血津液など)に基づいて統合する高度な知的作業です。患者が訴える症状の一つひとつを点ではなく線として繋ぎ合わせることで、病の本質に迫る「証」の決定が可能となるのです。





















