~2000年以上の歴史をもつ東洋医学~
「東洋医学」というと、漢方薬や鍼、灸、按摩やマッサージが思い浮かぶ。確かに、現在の日本では、古代の中国でおこり、日本に伝えられて独自に発達した医学を「東洋医学」とよぶことが多い。ただし、広くとらえると、 トルコより束の地域で発達した医学全般が東洋医学である。
イスラム圏でのイスラム医学、インドのアーユルヴェーダ、チベットのチベット医学も東洋医学に含まれる。しかし、この本では、日本で使われている、いわゆる「東洋医学」の分野を扱う。
陰と陽、虚と実、五行説など東洋医学での診断や治療に使われる哲学は、医療技術とは別に生まれたものだ。基本的な医療技術が確立した後に、病状の解釈や診断や治療を考えるうえで、古代の哲学が取り入れられた。そのため、概念と病状が完全に合致するわけではない。
中国の北方で灸、西方で薬草、南方で鍼、東方で貶石(石鍼)、 中部で導引・按摩療法が発達したといわれている。
鍼灸治療は、前漢(紀元前202~後8年)に存在していた医書『黄帝内経』にくわしい方法が書かれている。この時代に経絡や経穴(ツボ)の概念と灸と鍼の技術が確立されたようだ。
植物や鉱物などを服用する漢方薬は、東洋医学の薬物療法である。薬物療法の古典は後漢(25~220年)に書かれている。
金(12~13世紀)・ 元(13~14世紀)には理論的な投薬療法が完成した。
~日本で独自に発達した東洋医学~
このような医療技術は、5世紀半ばごろから朝鮮半島を経由、あるいは中国から直接に日本に伝えられたと考えられている。
平安後期から日本独自の診断や処方が加えられ、日本流の医学が成立し、江戸時代には全盛期を迎えた。
しかし、明治以後は日本政府がドイツ医学を正規の医学として採用したこともあり、日本の漢方はだんだん衰退していった。
しかし昭和になってから手軽に服用できるエキス剤や顆粒の漢方薬がつくられ、普及したことがきっかけとなり、再び、東洋医学が注目を集めはじめた。
現在では、西洋医学よりも副作用が少ないこと、原因がはっきりしない症状や慢性的な症状に効果があることが広く知られるようになり、鍼灸や漢方薬といった東洋医学を治療に取り入れる人が急増している。
2001(平成13)年、明治時代から120年の時を経て、医学部教育の中に、正規に東洋医学コアカリキュラムとして導入された。
【豆知識】
ツボを温める灸は、寒さが厳しい中国の北部で発達したといわれる。漢方薬は植物の種類が豊富な南部やユーラシアの西から珍しい生薬が運ばれてくる西部で発達したといわれる。